たれみみの読書日和

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『護られなかった者たちへ』中山七里*正義とは一体?生活保護制度の欠陥や矛盾に切り込んだ社会派ミステリー

生活保護を扱ったこちらの作品。福祉に携わる仕事をしている身として、ずっと気になっていた一冊でした。

今月、Kindle unlimitedで読み放題になっていたので、迷わず読みました。

読んでみて大正解!

ミステリーとして面白いのはもちろんですが、生活保護制度の欠陥や矛盾が非常にリアルに描かれており、善悪や正義とはいったい何なのか考えさせられる濃厚な作品です。

 

 

『護られなかった者たちへ』

 

著者:中山 七里

発行年:2018年1月25日

出版社:NHK出版

 

あらすじ

舞台は東日本大震災から4年後の仙台。

青葉区福祉事務所の課長《三雲》が、身体を拘束され餓死した状態で発見されました。

金銭には一切手をつけられていなかったことから、宮城県警捜査一課の《笘篠》は、怨恨の線で捜査を進めます。

しかし、家庭でも職場でも、三雲のことを悪く言う人は誰一人として出てきません。

起きるはずがない善人の死。

一体誰が、どんな目的でこんな残忍な事件を起こしたのか。

捜査は暗礁に乗り上げます。

しかし捜査を進めていくうちに、第一の事件の数日前に出所した一人の模範囚《利根》の存在が浮かび上がってきます。

利根は一体何者なのか。

日本の社会福祉に切り込んだ社会派ミステリー。

 

正直読み進めるのが辛くなるが…

物語全体の雰囲気は暗く、重いです。

餓死という残忍な手法を用いた殺人事件だからということもありますが、それよりも、福祉事務所の人々に事情聴取していく中で見えてくる、生活保護受給者や申請者の生活。

障害や高齢、母子家庭等、それぞれの事情から福祉を頼らざるを得ない人々。

彼ら一人一人の事情や生活に寄り添っているとは到底言い難いような、福祉事務所の対応。水際対策の数々。

その闇深さに切り込んでいる点が、より一層物語を重苦しくしています。

正直読み進めるのが辛くなるくらいです。

 

護られるべき人が護られていない現実

生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、自立に向けて生活を立て直していくことを援助するための制度。

生活保護の申請は国民の権利。

ですが実際、真面目な人ほど世間の目を気にする等して、申請を控える場合も多いようです。

意を決してようやく窓口へ行っても、申請すらさせてもらえず、路頭に迷う人々も…。

本当に護られるべき人が護られていない現実には胸が痛みます。

誠心誠意をもって任務にあたっている福祉事務所の方々がいることも重々承知ですが、怖いのは、そういう方々が知らず知らずのうちに、結果として貧者・弱者を切り捨てる構造になっているということ。

弱者を切り捨ててまで、福祉事務所が、国が護ろうとしているのものとは一体何なのでしょうか。

怒りさえこみ上げてきますね。

 

自分には関係ないと思う人にこそ読んでほしい

自分自身や、自分の大切な人が、病気や障害など様々な事情から生活保護を頼りにする日がやってくる可能性はゼロではありません。

その時に、自分は声を上げられるだろうか。

大切な人を護ることはできるのだろうか。

もっとたくさんの当事者が、声を上げやすくなりますように。

ためらわず助けを求められますように。

本当に必要としている人たちに社会保障が行き渡る世の中になってほしいと切に願います。

誰もが、他人事ではない話。

自分には関係ないと思っている人にこそ、読んでみてほしいなと思う一冊です。

今もまだ、Kindle unlimitedで読み放題ですのでぜひ。